「汚れなき祈り」:ヒューマントラストシネマ有楽町にて

「尼僧ヨアンナ」からのお知らせ

「汚れなき祈り」:評価90

監督:クリスティアン・ムンジウ 出演:コスミナ・ストラタン、クリスティナ・フルトゥルetc

 

 「4ヶ月、3週と2日」のムンジウ監督の最新作。「4ヶ月、3週と2日」は事前勉強無しで観て大惨事に見舞われたが(勉強して観ると非常に素晴らしいドキュメンタリー風映画です)、今回は非常に考えさせられる作品でした。

 孤児院育ちの幼なじみが主人公。ドイツの過酷な環境から抜けだし相方を連れて明るい未来を開拓したいと思っている女の子が、相方のいるルーマニアの修道院にやってくる。しかし、相方は侘びしいながらも安全が確保された修道院暮らしに慣れてしまい女の子との脱出計画に乗ってくれない。女の子は折角必死になってルーマニアに来たのに、肝心な人のせいで計画が頓挫しそうになり心が病んでいくのだった...。

 この作品は大きく分けて3つの種族の目線で描かれている。そして3つのテーマをじっくりと描き出している。一つ目は主人公の女の子。ここでは「神」の消失がテーマである。孤児院から一度出てしまうと二度と戻ることの出来ない。いきなり社会に放り出された女の子は異国の地ドイツの過酷な労働に苦しんでいる。彼女にとっての「神」は女の子であり、過酷な生活から抜け出すために必死にルーマニアまで旅に出る。しかし、肝心な「神(女の子)」は修道院色に染まっていって、いわゆるカトリックがプロテスタントに変わる並の変化を遂げていたので、女の子は「神」を失い希望喪失で気が狂ってしまう。「神」とは敬虔に祈る対象であり、無神国家日本でも一応誰しも信じるものがあるから「神」は存在するんだなと思い、物語の深さに感心した。

 二つ目は相方である「力」と「情」の対立が描かれる。自分の信じる宗教をドイツから来た旧友に布教しようとするものの、失敗。彼女は修道院の宗派に馴染めず逆に発狂してしまう。しかも修道院の人は荒療法で彼女を苦しめる。相方としては、折角旧友と再会したのに、彼女が不幸に見舞われ、しかも自分の信じていた修道院の人の手で彼女を苦しめているのでたまったもんじゃない。相方は修道院の人の中で唯一「情」で救済しようとし葛藤するのだ。このパートは修道院の人びとが「力」で女を救済使用とするのに対し、「情」で救済しようとする相方を描くことで見事な対立関係を生んでいる。「力」で制すれば相手を大きく傷つけ、「情」で制すると確かに和解に近づくが相手がつけあがる。このなんとも言えないジレンマがまた悲劇をダイナミックに描いている。

 三つ目は修道院の人びとだ。ここだと医療問題をあぶり出している。謎の女が突如発狂。病院に搬送してもらうが、ドイツ国籍を持っているためかすぐさま病院から追い出されてしまう。修道院の人びとは困ってしまった。自分たちの宗派を信じてもいないのに、「惑星ソラリス」のごとく何度追放しても戻ってくる上に危ない人物。しかも病院は全くもって彼女を無視する。しまいには謎の女は「尼僧ヨアンナ」のごとく発狂。このままだと自分たちの修道院運営の存亡に関わることになるから仕方なしに荒療法で治そうとする。ここで描かれているのは医療問題だ。ヨーロッパって福祉国家で病人に優しいと思いきや、移民に厳しいところがあるのですね。そして、病院と修道院の違いを物語るラストのジレンマに心が締め付けられる思いでした

 このようにこの作品は宗教色強い作風の中に、現代ヨーロッパの抱える移民問題や救済に関する法律の矛盾を暴き出した勢いのある作品でした。