「俺俺」:TOHOシネマズ 錦糸町にて

アイデンティティがない、生まれないららららー

「俺俺」:評価85

監督:三木聡 出演:亀梨和也、内田有紀、加瀬亮etc

 

 自分に自信が無い時というものは、自他を比べたときに優越感に浸れるものがない時だろう。その優越感に浸って安心するためには、他者を認めなければならない。この作品は、人生の充実感について描いたシュールなサスペンスだ。

 他者を見下し、毎日自堕落に人生を送っている青年が、ファストフード店で他人から盗んだ携帯を使ってオレオレ詐欺をしたことから、自分によく似た分身が大量発生するという話だ。

 朝井リョウの「何者」では、上記の人物によく似た主人公が女友だちに、「いい加減気づこうよ。私たちは、何者かになれない」と叱責を食らう場面がある。この話も、まさに、この「何者にもなれないもどかしさが」テーマである。

 うざい同僚に嫌気がさして、盗んだ携帯使ってオレオレ詐欺をする。そして盗んだ携帯の主になってはみるものの、なりきれてはいない。そしてそれに気づかぬまま、3つの人格を主軸として劣化コピーが大量生産されていく。当然「巨乳の俺」とか「全身タトゥーの俺」になりきれるわけがないのだが、劣化コピーが大量生産されすぎて逆に人格を奪われそうになる。そして、主軸の人格とを否定し承認しないため抗争が起きる。

 お気づきの人はもうおわかりだろう。これは人格探しの旅なのである。背伸びしたところで反動が来てしまう。キチンとキャリアクリエーションしないまま、憧れの人格になろうとしたって下手すれば人格崩壊するだけである。そう、主人公は新しい自分を模索するために悪夢を彷徨っていたのだ。

 それ故にラストの展開は皮肉で笑えるカーテンコールと言えよう。

 これほどまでに、シニカルでシュールで怖い映画は珍しい。三木聡の暴走演出に加え、ドロドロした音楽がより一層ミステリアスな雰囲気を醸し出していたからだろう。これは原作を読まねば。そして風刺に浸るとしよう。