「さよなら渓谷」:有楽町スバル座にて

映芸~DVMANの苦悩~

「さよなら渓谷」:評価75

監督:大森立嗣 出演:真木よう子、大西信満etc

 

 「ケンタとジュン、カヨちゃんの国」、「まほろ多田便利軒」と熱くデカダンスを描く作風を得意とする大森監督の最新作。モスクワ国際映画祭で審査員特別賞を獲ったということで観ることにした。

 「横道世之介」の原作が三島由紀夫や田山花袋を思わせるなんか格好いいエンディングの描き方だっただけに、この映画も原作を読まなければなと感じた(原作者は同じ

吉田修一)。今回は、映画という視点だけで語るとしよう。

 この映画は、まるで夏目漱石の「こころ」を読んでいるような物語である。最初1時間、とにかく謎だらけで混乱してくる。逮捕された女と隣に住む夫婦、特に男が深い関わりがあるらしい?えっ不倫、トリュフォーの「隣の女」的話なのか?えっ誰こいつ?などと不安が募るぐらいの謎のマシンガンに圧倒される。しかも淡々と進むから正直辛い。

 しかし、そこを耐えて段々男の過去が分かって謎が解けてくるとこの話がいかに哀しく切ないのかが分かってくる。丁度、昔「こころ」を読んだときの謎深い「上」が「中」「下」で解けていくような面白さがあった。

 さてこの作品を読み解くと、記者が「こころ」における「私」にあたることが分かる。殺人共犯の疑いを掛けられて逮捕された男。記者は調査を進めると、その男にDV癖があることが分かる。しかし、その男の抑えきれないDVとの葛藤にシンパシーを抱き調査をグイグイ進め始める。そしてその男が必死にDVを押さえ込もうと、また過去の償いをしようとしているところにさらなるシンパシーを抱く。

 そして「こころ」における「中」「下」に当たるところでその男の過去が明らかにされる。その彼の贖罪の描写で彼の葛藤と決意を観客に突きつけ、記者の気持ちが分かってくるのである。

 過去と現在、人と人を巧みにクロスさせて描いていて非常に文芸的作品でした。ただ、本気を出しすぎたためか、冗長を感じさせてしまった。かなりその冗長さが映画を台無しにしていたので、残念だ。

 ちなみに濡れ場の描き方もテクニシャンだ!DVに陥ってはいけないという反面教師的役割もしつつ濡れ場、巧みな物語構成も楽しめる技あり作品でした。