「25年目の弦楽四重奏」:角川シネマ有楽町にて

人生の調律まで狂うドSの14

「25年目の弦楽四重奏」:評価95

監督:ヤーロン・ジルバーマン 出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、クリストファー・ウォーケンetc

 

 映画館でバイトをしている私にとって、合理化の時代でお客様との深い接触ができなくなった時代ではあるものの時折陽気に絡んでくるお客様との対話に至福を覚える。この前、映画館をハシゴ中と語るおじさんから自分の劇場に対して「作品選びがいいね(確かに凄い。私の知る限り2008年度から必ず1作品以上はキネマ旬報ベストテンに入る。)」とお褒めの言葉を頂き、そしてこの作品のクオリティの高さを豪語された。そして、定期テストが15:50から1教科のみと非常に暇な今日観に行くことにした。

 流石、映画サービスデー。そしてやはり凄い作品なためか玄人or仙人のような人でごったがえしていた。んで本当にクオリティが高かった。

 この作品は「ベートーヴェン弦楽四重奏曲第14番」という、Very LongかつVery Hard。あまりの難曲に引き続けると調律が狂うというこの曲と「人生の調律の狂い」を上手いこと掛けている。そして、本当にオーケストラの数楽章構成の曲を聴いているように物語も進んでいく。

 まず、ストーリーは「ベートーヴェン弦楽四重奏曲第14番」の説明から入る。この曲を知らない人でも、この映画の構成まで教えてくれる丁寧さだ。

 そして、本題。強固な絆で結ばれていたカルテットに突如、仲間の一人がパーキンソン病に罹ったため引退するという騒動が起きる。素人である私にはどこがおかしいのか分からないぐらい厳格に調律を整え合うこのカルテットにとって、一人人員が減ることは「崩壊」を示す。新しい人を雇うにも、保守派が「調律が乱れる」と反発。ずっと第二ヴァイオリン(皆の音をまとめる役、ロックバンドに例えると地味な方のギターorベース的役割)担当だった仲間が第一ヴァイオリン(四重奏におけるヴォーカル)を担当したいと言い始める。んで抗争が始まる。
 ここで冒頭の説明が活きていく「ずっと演奏(ベートーヴェン弦楽四重奏曲第14番)を引き続けると調律が乱れてくる。ここで止めるか、もがき苦しむか...」。この四重奏団はもがき苦しむことを選ぶ。調律が乱れに乱れ現代音楽やロリコン、情事へとうつつを抜かす。「コウハ」から「ナンパ」へと転向していくのだ。そして演奏も互いに対立し合う。ここでのポイントは、肝心なパーキンソン病の人はこの抗争に加わらず第三者であること。そして代役候補はいつまで経っても姿を見せない点である。パーキンソン病の人はもう引退だから、亡き妻のことを考えながら感傷に浸っている。一方残された3人はいがみ合いながらも、「崩壊」を通じて保守派から革新派へと変貌を遂げている。それを一番知らないのは、そうパーキンソン病の人である。

 それ故にコンサートシーンで巻き起こるどんでん返しにあっといわせられるものの、納得がいく。調律が乱れてももがき続けた先にあるもの、冒頭でのあの台詞を伏線にすることで見事驚くべき形で表していた。あんなに崩壊していたのにラストコンサートでのあの出来映えに腑に落ちない部分はあったが、それはプロのみが為せる業として目をつむるとしよう。

コメント: 0 (ディスカッションは終了しました。)
    まだコメントはありません。