自動車教習所日記~5日目~

GO TO HELL(モーターヘッド)

 「ロボゲイシャ」の「地獄へおいでやす」を英訳すると「Go to hell」になるらしい。そして、チェの自動車教習所ライフは「知るよしもなかった」という伏線が見事に的中。地獄と化した。「地獄でなぜ悪い」と園子温に怒られそうだが、チェにとったら精神的にいよいよ逆刃刀の隠された刃を抜きそうになるエマージェンシーコールだ。

 チェは議論や発表での緊急事態はてきとーなことを乱射することで対処する術を持ち合わせているのだが、体育的なことは今までずっと体育を避けてきて、学校教育から体育が消滅することを心待ちにしていた故に緊急事態になるとパニックに陥りてんでダメになる。それに加え、チェは無機質にキレやすい性格を持っており、ハンドブレーキやギアが言うことを聞かないと、ショットガンでぶちのめしたくなるほどのストレスを抱えてしまう。これはアーユルヴェーダ健康法の性格診断でも明らかにされている。自分の時間や空間を邪魔するものにものすごい憎しみを感じてしまうのだ。

 さて、チェのひた隠しにしている逆刃の部分が教官たちによって解析されたためか、実技補講をまた1時間増やされた。そして、「ワールド・ウォーZ」を観る予定を潰され幻滅していた私に追い打ちをかけるようにペーパーテスト二枚目もあと1点で失格になり(模試は昨日合格点の45点を出しているため影響はないのだが)、カーブも頭真っ白になり、左に何回転させたか思い出せず脱輪するし、世紀末を見るかのような光景がそこに広がっていた。

 そして、見つけたラーメン屋に入りチェは味噌ラーメンと餃子を注文。出てきた、リンガーハットのちゃんぽん大盛りサイズのラーメンに圧倒されながら紐をすする。醤油ラーメンじゃね?麺と汁が絡んでいないことに彼は落ち込んだ。彼の心には喜怒哀楽の哀のみが残された。

 「SRサイタマノラッパー」のラップを聴きながらトボトボ戻り、待合室で待つ哀愁ある立ち姿は「迷子の警察音楽隊」そのものだ。

 さて、いよいよ教官に「そんなにMTとらなきゃあかんの?東京だ戻ってざ、AT解除の試験受ければええと思うだべ」と言われてしまった。猶予は1日。チェほど二択に弱い男はいない。ドラえもんののび太ほどではないが。そこで彼は昨日読んだ「仕事に役立つ統計学の教え(斎藤広達著)」で得た知識を使って試算してみた。彼がもし、そのままMTにしたとする。学科のテストの合格率は50%。これは50問テストの合格率であり、本番は100問テスト。90点が合格である。そして、実技合格率はおそらく30%くらいであろう。つまり、彼が合格する確率は0.5×0.5×0.3=0.075。7%である。しかもそれが2回ある。上達率見込んで、後半を0.7×0.7×0.5=0.245。約25%である。掛け合わせると絶望的数字だ。

 一方AT操作時の成功率は60%ぐらいだろう。0.5×0.5×0.6=0.15。15%の確率で受かるのである。あとはペーパーのテストさえもっと読み込めば釈放の目処がたつ。丁度2度失敗したら友人もろともデンマーク旅行に行けなくなる彼にとって、ヤンキーや友人に敗北して悔しく羞恥心で満ちあふれているが、そんなときこそ数学的・論理的に妥協することが大切である。サンクコストはもうしょうがない。明日一番に担当員にサレンダーを申し込もう。負けるが勝ちとはこういう時に使わなければならない。

 さて、彼の引き起こすパニックはどういったものだろう。

 有力な説としては、記憶障害と併発してパニックを起こすものだと考えられる。彼は嫌な記憶はすぐに忘れようとする性質を持つ。これは陸上部時代の辛い練習を、自ら記憶喪失させることで次も暢気に走ることができるであろうと彼が考えたときから始まった。よほどの辛い記憶は消すことが難しいが、行動を忘れるのは得意だ。どうでも良いことや辛いことは徹底的に忘れるようになっていった。それ故に、困った出来事が起こる。バイト先での金銭授受。彼は出会った人などすぐに忘れてしまう。だから、列ができ、人に番号札を渡すまではいいが、商品を渡せない事態が発生する。また、金銭授受を行ったか否かお客様が何を頼んだのかを覚えることができない。だから最初の頃はよく違算を出してしまっていた。しかし彼は何があってもパンフレットを出す、ジュースのスイッチを押す第一操作をしてから金銭授受をするという方法を体に染みこませなんとかしのいだ。そんな彼を困らせるのが、混雑時や勤務引き継ぎ交代の時だ。どちらも周りの人の方法に合わせなくてはいけない。自分の方法が封印される。頭がホワイトアウトする。動けなくなる。といった事態になる。パニックに弱いことも併発して惨事にいたる。そうすると、どもって言葉が出て来なくなり失語に陥る。

 この負のスパイラルを起こさないように作られた防波堤が、彼が高校時代に編み出した記憶消滅法なのだが、これでは防御が甘い。「進撃の巨人」のようにもう2つくらいバリケードが欲しいものだ。なんたって、福島の原発事故は5つのバリケードをメルトダウンでもって破られてしまっているのだ。1つじゃ柔らかすぎるのも明白だ。

 私が提案する方法は、気持ちを静めることである。緊急事態になると無機質に切れ始め、原因を作った人物にまで火の粉を散らす。情報リテラシーの時間に、折角完成させた代物を先生のアドバイスでもって訂正したらメチャクチャになり提出不能になりかけたときにFワードを連呼、先生に喧嘩をふっかけようとしていたがこれでは第三次世界大戦が起きてしまう。だから、落ち着いて問題を把握する能力が彼には必要である。最初は難しいだろうから、アロマ持参で落ち着けるのがよかろう。これで診断を終えるとしよう。