自動車教習所日記~8日目~

ないものねだり(KANA-BOON)

(場面は職員室、教官が10名ほど座っている。一人の教官が入室。デスクに着いたところから始まる。)

教官1:「今日も暑いっすねー。毎日こうも熱いとやんなっちゃうよ。」

教官たち:「そうだのー」

(名簿を煽りながらだるそうに団らんする)

教官2:「そういえば、今日は模試だね。入学当初は危うかったがみんな上達してきたの。」

教官1:「そだね。あの金髪のAやおなごたちも運転メッチャ上手くなってきたな。

ペーパーね。再試今年は4人もでだべ。」

教官2:(ため息つきながら)「おしいべ、おしいべ。皆40点は超してくるから、あいつだーあど一点で落ちたどきの顔見るの悲しいべ。」

教官3:「んだ、んだ!今日、採点者だからちと重いべ。ところでお前さんがた、今日の運転だれ担当するべ?」

教官2:「俺、B子だべ。あいづ、文化祭やクラブで忙しいのにようくるべ。おまけに運転上手くなったべ。」

教官3:「おっつ、B子か!バスケでxxx高校を倒したって喜んでいたべ。ん、どうしたべ?」

教官1:「おら、今日チェだべ!」

教官3:「あのぼっちゃんがっ。AT変えたやつじゃあ。受け答えはええんだが、運転させっと危なかしくてしょうがない。んで、大事なところは忘れるのに、細かいところは覚えているっちゃ。受かってほしいのぉ。」

教官2:「まあ、今日は気を抜かぬようにだな!」

教官3:「おっ時間だべ。行くとすっかぁ」

教官1:「んじゃあ、いってくっとぞ!」

(教官退場。暗転)

(ホテルの部屋のシーン。チェと同僚はベッドで寝ている。)

(スクリーンでドライブのシーンが映る。チェの心の声で物語は進む 注:「チェの心」はスモークかがった音声で)

チェの心:「前よし、右よし、右合図よし。出発。」

(車は停止線で止まる)

教官4:「よし、まっすぐ行って、曲がったら40kmまでだそう。」

チェ:「了解」

チェの心:「よっよし!右に敵機いない。前進。さあ、スピードあげるぞ3...2...1...ハイ。よし、良い子だ落ちろ落ちろ。んしゃ曲がれ。」

教官4:「5番に入ってすぐ左。」

チェの心:「前ミラー、サイド、横、いねえ、いけえ。よし。寄れ、寄れ。あっつ左左。中央線が近い。よっしゃ。前々右右徐行して。あっつアブねブレーキ。」

(トラックが横すれすれを通過する。)

チェの心:「このファッキントラックめ!よし、良い子だ良い子だ。右から出てくるなよ。それ。」

教官4:「2番S字入って。」

チェ:「了解」

チェの心:「シックスセンスを使わずとも突破してみせる。サイドミラーが縁と重なったら面舵いっぱいだろ!よし、あとちょっとだ。いけいけ、ストップじゃない。じょじょじょの徐行だ。おらー」

(車はガクガクと悲鳴をあげながら曲がる)

車:「ランボーじゃないんだから乱暴に僕を操らないで。僕にしゃっくりさせないで。」

チェの心:「よーし良い子だ。すかぽんたんじゃあねえな。よし前々そして左左。ちょっちょっちょ、まだ暴れるな。暴れるにはまだ早い。そしてもう右だ。今日は本当に良い子だ。さて、左行くっぽいぜ。右左合図だして。よしいねえ。行くぞっっっっぁあ!」

(トラックにふく飛ばされる。じりりりと音がけたたましくなる)

車:「みたか、この神風よ。お前の現実でも魅せたるわい。」

(チェは飛び上がり起きる)

チェ:「なんじゃ、こりゃ!あっつアブねえ。こんなアブねえ夢を見るこったぁ、ちと不安だ。勉強しよう。」

(同僚が起きてくる)

同僚:「んぬぁあ。おはよう。今日はテストだねえ。ドライブが心配だ」

チェ:「教科書を何度も読むと、分かった気になるからこわいよな。トラップこわい。饅頭こわい」

同僚:「取りあえずドライブのイメトレしよっと。」

(そういって、彼は教本を脇に置いて目を瞑りながら運転の練習。暗転)

(場所は試験会場。生徒がぎっちり座り教官が勇ましく立っている。)

教官3:「さあ、○か×か選ぶがよい!」

(みんな解き始める)

チェの心:「んっ一問目から道徳問題。ちょろいぜ!信号、朝飯前。何、自転車の横を通る時、十分間隔開いていれば徐行せんでもいいんだよな。あれ、自転車危ない人多いけどどっちだっけ。考えろ俺。あっつそうか、バスとかってチャリの横走るとき徐行はしてないから○だ。んっこんな問題。問題集になかったぞ。チクショー。」

(生徒が用紙を提出し始める)

教官3:「F子。満点。J。お前危ないぞ。明日に備えろ。」

同僚:「お願いします」

教官3:「どれどれ。ああ合格だ。」

同僚:「ありがとうございました」

チェの心:「みんな終わるの早いぞ。俺は5問危ない問題がある。一歩間違えると奈落だ。どっちだ○、×。正解率は50%5個全部×って事はないよな。だって32分の1だぜ。のび太ほどの悪運がなければ大丈夫だ。行こう」

チェ:「お願いします」

教官3:「ドレドレ、あんた危ないね。明日は気をつけるのだよ。」

チェの心:「まじで死ぬかと思った46点。満点を獲って安心したいものだ。」

(暗転)

(自動車乗車場にて。生徒は右で固まる。教官たちは左のベンチで座るなり立つなり、人それぞれのスタイルでたばこをふかす)

教官2:「さあ、いくべ」

(教官たちが名を呼び。生徒がついて行き、そして去って行く。最後にチェと教官1が残される)

教官1:「チェ、いくべ。今日は見極めだから本番同様にいくべ。じゃあ乗れ。」

チェ:「はい」

(車の周りを見て回るそして乗り込む。教官も乗り込む)

教官1:「左に行って、1番停車しろ。」

チェ:「了解です」

チェの心:「駐車。俺が苦手とする奴だ。合わせろ。って、こいつ俺の苦手な奴だ。備えろ。よし、左に寄りすぎだ、右右よーしストップ。」

教官1:「寄りすぎだべ。前輪ちと白線かかっているべ。どこ見て決めてるんだ?」

チェ:「サイドミラー見て前のミラーの左ぐらいにポールの中心がくるようにあわせています。」

教官1:「ハンドル持った時の左手の位置が左のタイヤだべ。それを白線と上手く合わせるんだべ。ポールまだ先だべ。」

チェの心:「そんなのきいとらんぞ、一昨日のおっさんが教えてくれた通りにやったでい。ポールの位置はいままでそれで不平言われたこと一度もなかったぞ。まあ、手を前にして標準を合わせるのは参考にするがな。バイトもそうだが、これは不条理ゲームだ。相手の手札に合わせろ。面従腹背で行け。」

チェ:「なるほど。分かりました。では。行きます。」

(しばらく平和な走行する。)

教官1:「では、ぐるって回って5番を左に曲がってください。」

チェの心:「んっこの進路だと、5番左折はないぞ。まあ5番を行けばよいだろう。刃を向けるな」

チェ:「りょっ了解です。5番ですね。」

教官1:「いや20番を左だ。」

チェ:「チッ了解です。」

(運転に乱れが生じる)

チェの心:「なんやねん。進路変更しやがって。って20番どれが交差点だよ。やべ曲がる時だ。曲がれ曲がれ。」

教官1:「中央線超えたよ。はい25右」

チェの心:「えっつ心の準備が。早すぎるんだよ。」

チェ:「25番ですね。」

(慌ててハンドルを動かし、がたっと言う音と共に脱輪)

チェの心:「なんでやねん。まじ相性最悪だわ。バックバックと」

教官1:「おい、後ろ。バイクだ。」

チェ:「あぶねえ」

チェの心:「何故だ、Bバイクめ。なぜあんたがそこにいる。やべ、今日も核爆発寸前だ。冷却装置で頭を冷やさねば。」

教官1:「1駐車するぞ。」

チェ:「了解」

チェの心:「焦るなよ。おっさんの言うことも正しいのだろう。手で方向を合わせ、よし微速維持。サイン忘れるな。近づけ。右に修正。よしまっすぐだ。グイグイ。止まれ」

教官1:「明日は本番だから気を緩めるなよ。がんばれ」

チェの心:「25周辺もイマジリしとけばよかったな。帰ろう。」

ナレーション:「彼の上に立ちこめる暗雲は分厚い。彼の心の刃は運転をも蝕み、教官とも無言の軋轢。冷戦が勃発している。明日は人生を帰る日だ。ないものねだりはするな。あるものをねだれ。耐えるんだチェよ」

カーテンコール(第8幕終わり)