自動車教習所日記~10日目~

難攻不落ガール(空想委員会)

 弱さを隠そうとする様。ハリボテの牙。少林寺拳法をやっていた時期があっただけに、「難攻不落ガール」の歌詞に親近感を覚える。弱さを隠そうとする様。バレバレだけど、隠す。それが、私だ。路上のドライブなんて、戦闘機ゲームのように加速減速を繰り返して必死に時速40kmを超えぬよう。39と40の間を行き来する。教官に安全確認を十分行っていることを大げさにアピールする。8割方眠気との死闘となる学科は、夢と現実の狭間を行き来する。手の甲に抱えるガングリオンを、シャーペンの黒き針でつつき現実へと強制送還させる。弱さを見せつけたくない気持ち、ギャッツビーに似た意地をここで張りまくる。

 とはいえ、流石登ったのは険しき山だけあって頂上の景観は絶景である。ロードサイドではなくロードそのものを駆け抜ける光景は、大名行列の殿様になったような勝景である。特に法定速度区間で出す時速60km。工場と工場の間の幅30mくらいの大きな道を疾走したとき、田園に囲まれた細道を飛ばしたときに垣間見る風景を独占することに景福を抱く。この一段落を読んでの通り、マシンで暴れ回ることは「景」を勝ち取ることである。俺がチキンだということを見抜かれないように、教官のふっかける世間話に乗ることも大切である。目は速度メーターと前方をスイミングのような感じで息継ぎしながら、教官と話す。教官が震災の日にどこまで大量の水が押し寄せたかを熱弁する。そして、人が花を手向けている場所や崩壊した橋など見て彼は哀れむというよりも懐古している。彼はその日、チャイニーズウーマンと共に自動車教習の旅へと出かけていた。運命の時、大地を揺るがす揺れが彼らを襲う。教官も人間である。あんな、大地震ではまともではいられない。教科書には、エンジンキーは付けたままにして、エンジンを止めて車から出て避難せよと書いてあるのに、彼は車で高台へと逃げようとした。ウィズ・ザ・チャイニーズウーマンだ。しかし、案の定渋滞。急いで近くにあった工場へと、どこぞのホラー映画並に行き当たりばったりで逃げたそうだ。実はこういった災害時に、外階段のついた建物に逃げるといいそうだ。ヘリコプターで救出されやすいとのこと。彼が入った建物の扉の多くは、揺れ変形で開かなかったが、外階段を使って逃げたため無事流されず済んだとのこと。寒いくて凄まじかったとのこと。俺だったら、「人間の條件」のように平和だった頃に思いを寄せながら散ってゆくのだろうと感じた。

 こんな感じで傾聴者になりきっていたのだが、やはりチキっていたことがバレる。40数キロ出しても問題ねえ。むしろ、下手にスピードを落としたり、前を見ていない方が危険だと語る。書はテストのためにしかならん。実践では、型破り、法破りが強いらしい。学科でも、「人間ずる賢くないと生き残れないぞ。変なところは覚えないでよい。実際には法定速度は少し超えても良い。住宅地で、自宅前に駐車するのはいけないが基本警察官はこない。もし通報されて違反切符切られるのであれば、それは近所付き合いの問題だ。」と豪語。第一段階とえらい違いだ。なるほど、実践とは型を破っていく勉強なのかと納得する。教官が優しくなるのは、教官だって普段は型破りな爽快走行を愉しんでいるのに制約されて悶々としているからなのだろう。教え方も、テストに出るところ中心。この地区では使わない技術は端折ること端折ること。教官との間にできたベルリンの壁はベルリン崩壊に伴い和解へと近づいたんだと痛感させられた日だった。

 最近、学科の授業が眠い。理由は、恐らく予習で全ページ読み込んだからだろう。落書きして遊ぼうと思うにも、男の意地で全授業最前列で聴こうとしている私にはできない。こっくりさんになるのを気合いで抑圧する。そして、時折映像が俺の妄想と一体化することがある。現実と夢の狭間で起きる出来事らしい。今日は、日常点検のビデオを観たときに起きた。女の人がバッテリーに補充液をつぎ足しているシーンだ。後ろから大きく厳ついやくざが迫る。後ろ振り向きざま、女の人が補充液をやくざにぶちまける。やくざの甚平が白い煙をあげながら溶ける。「何しとんじゃいぼけい!」とチャカを出すところで私は、夢だと気づき起きる。なんか、「エルム街の悪夢」の世界観が分かった気がした。第二段階は突貫工事でテストに備えるから、一日に運転3時間、学科3コマ以上とハードだ。明日も恐らく睡魔と戦うだろう。学生たる者、「睡魔」と飽くなき戦いを繰り広げるのが使命なのである。

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