「重力の虹Ⅰ(本)」

アンサイクロペディアからの挑戦状

「重力の虹Ⅰ」:トマス・ピンチョン著、国書刊行会

 

 アンサイクロペディアには、「読書感想文に選ぶと親呼び出しにされる図書一覧」という項目があり、「ドグラ・マグラ」や「ウォーリーを探せ」、「裸のランチ」などといった本が選出されている。そんな中に「重力の虹」があって、このサイト曰く登場人物が多すぎてムズイとのこと。チェ・ブンブンの夏休みはまだまだ長い。そこで、この本2巻を読破し感想文を書くことにした。以下は1巻についての感想である。しかし、思いの外面白い小説だが、小学生や中学生の読書感想文にするとしたら危険きわまりない本だと気づかされた。

 

 この小説はセックスをすると、その地域にV2ロケットというミサイルが落下するジンクスを持つ男スロースロップと彼がテロリストか否かを巡って調査する様々な組織との攻防を描いたものである。しかし、V2ロケットが人々を殺戮するから危ないといった描写が皆無なことから、V2ロケットの落下はセックス完了のシンボルであり、色男スロースロップと彼を妬む集団との知的格闘小説と捉えることができる

 例えば、組織がスロースロップとロケットの関係を考察するときにパブロフの犬現象を利用し始める。パブロフの犬とは、犬にえさを与える際、毎回ベルを鳴らすようにしておくとやがてベルを鳴らしただけでもよだれが出るという現象である。つまり、スロースロップがセックスをすると条件反射的にミサイルが落ちるとのことだ。あまりのビックリ説すぎて、ロケットはシンボルでしかないのではと考えた。なんたって、この小説における性描写が豊かすぎて、ロケットなどほっぽりかしているのだから。例えばp294上段、カティエという女とセックスする場面でスロースロップが性交するとロケットが落ちることをカティエが彼に教えてあげるシーンで

 

 「こんどは噴射拡散角度。あたしが高度をいうから角度を答えるのよ」

 「ねえカティエ、角度ならきみが教えてくれればいいじゃないか」

  以前カティエは孔雀の求愛行動を、羽をひろげた姿を思い出して嬉しくなったこと 

 がある~愛の儀式をプログラミングされて上昇してゆく

 

と描かれていることからロケット=セックスという方程式を成立させてしまっている。

それがさらに確信に変わるシーンがp422上段の

 

 「うーん。当時、嫉妬はわたしにとってまだ非常に肉体的なことだった。でも、ヴァイ

 スマンはすでにそんな次元を超えていた。~わたしは〈ロケット〉の一部になるだろ

 う」

 

別な登場人物のシーンではあるが、やはりロケットと夜の合体を連想させている。

 さて、この小説には登場人物が沢山出てくる。巻頭の人物リストを読むだけでクラクラしてくるほどだ。しかし、気を病まなくてもよい。何故なら「裸のランチ」同様、ほとんどのキャラクターが出落ち。いつの間にか蒸発しているのだから。重要なのは関係と構造を掴むことである。大まかに述べると、色男かつミサイルマンであるスロースロップの謎を解き明かす組織が2つ〈海賊〉と超能力について研究しているオカルト組織だ。その二つの組織による統計学、物理学、神話、心理学などを使った考察の合間にスロースロップのシュールな日常が描かれている。登場人物が増えるのは学者陣がスロースロップと似た色男、あるいは彼のセックスフレンドと似た境遇の人物を引き合いに出すためであり、またスロースロップ自身も好色一代男並に女をひっかけるから必然と増加するのである。それ故に、あまり登場人物にこだわってもしょうがない。雰囲気を掴むことこそが大切なのだ。さて、下巻でついにミサイルの謎が解けることを信じて読み込んでいくぞ。

 

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