「楽園からの旅人」:岩波ホールにて

失楽園に訪れる希望民族

「楽園からの旅人」:評価80

監督:エルマンノ・オルミ 出演:マイケル・ロンズデール、ルトガー・ハウアーetc

 

 岩波ホールデビュー!!案の定、重々しい雰囲気が建物全体に響き渡っていた。岩波ホール周辺は古本街である。映画の昔懐かしポスターが埋まっている。街全体が、遺跡発掘場になっているようだ。そんな劇場が故に、場内飲食禁止である。映画館で働いている身として、「Bunkamura ル・シネマ」族。「岩波ホール」族を押さえておかねばならない。たまにノーマル映画館に現れる上記の種族は場内飲食する文化に苦言を呈してくるからである。映画館で働く者、特にミニシアターで働く者、是非上記劇場の硬派なムードに慣れておこう。

 さて、今回紹介する作品はエルマンノ・オルミ監督作「楽園からの旅人」である。おる観監督と言えば、「木靴の樹」「ポー川のひかり」と名前は聞いたことがあるが、TSUTAYAで発見するのが非常に難しい幻の作品が多いイメージがある。なんたって、TSUTAYA渋谷店でこれらのパッケージをみかけたことがない。かといって、新宿の紀伊國屋書店でもみたことがない(注:TSUTAYAは最近、「発掘良品」という企画で頑張っているが、数年前まで紀伊國屋書店で販売している紀伊國屋レーベルものは値が張るためかTSUTAYAに置いてなかった。だからアンゲロプロス、ソクーロフ作品をTSUTAYAで借りることは至難の業だったw)。だから、ここで逃したら観ることなく人生を終えそうだということで岩波ホールデビューもかねて攻め入った。

 この作品は宗教と近代、民族と楽園を暗美しい映像で紡ぎ出している。取り壊されようとする一つの教会があった。近代化による合理化で、神のいるところですらショベルカーや機械が押し入り取り壊してしまう。人々の心の楽園は何処へ...神父さんは悲しみに暮れ失楽園に引きこもる。さて、そんなさなか密入国した移民たちが警察の目を逃れるようにその失楽園にやってくる。彼らにとってそこは楽園であった。神父さんは、心の楽園にこの失楽園を選んでくれた民を快く受け入れる。しかし民に施せる食料少なく、言葉のキャッチボールもままならない状況でかれらは神父さんそっちのけで議論を開始、神父さんは嬉しいような寂しいようなアウェー状態を自宅警備員というスタイルで表現ほかなかった。そして、ついに警察が家宅捜索にやってくる自宅警備員型神父さんはどう対処するのかが見物である。

 いつの間にか、神父さん完全無視に進むストーリーに戸惑いを隠せないが宗教と現代社会の構図を面白く描いている。例えば、取り壊しのシーン。扉ががたっと開き黄色い怪物と無数のシルエットが映し出される。まるで、「教会」というテクノロジー絶対不可侵のATフィールドを破るかのごとく怪物が進撃し、キリストの十字架ですらあっさりと除去されてしまう。第二次世界大戦ですら、アメリカは「天皇崇拝」という宗教を信じる民の逆襲を恐れ、京都や東京に原爆投下するのを諦めた。そんなこともお構いなしに宗教の場を侵略する描写に、フランチャイズが世界各国を侵略し中東やアジアの文化を容易に迫害している現代の縮図を臭わせていた。

 そして、やってくる移民。文化や故郷を壊され亡命したが、その地も現代マジョリティに侵害された失楽園である。彼らは、いつだって迫害者に抵抗できるよう武器を忍ばせる。命の恩人について考える余裕もない。

 このはかないストーリー。台詞を少なくすることで哀愁を存分に臭わせる。オルミ監督って面白いなと感じ、俺は昭和な世界から現代へとタイムスリップしたのだった。

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