「旅人は夢を奏でる」:フィンランド映画祭2013にて

M・カウリスマキ監督ティーチイン報告

「旅人は夢を奏でる」:評価60

監督:ミカ・カウリスマキ 出演:ベサ=バッティ・ロイリ、サムリ・エデルマンetc...

 

 フィンランド映画祭に行ってきました。今回の目玉はフィンランド映画の巨匠アキ・カウリスマキの兄貴ティーチイン付き「旅人は夢を奏でる」である。ってことで北欧研究会メンバーとして行ってきました。残念ながら、インタビューしようと思ったら時間切れで出来なかったのだが(もうちょっと早く挙手すれば良かった...)、監督から沢山貴重な話を聞けました。

 

 まず、ミカ・カウリスマキが愛する監督として小津安二郎、黒澤明、溝口健二を挙げていた。特に溝口健二を推していて、「雨月物語」を生涯のベスト映画として選んでいました。よくよく考えると、あの時代の監督の映画って独特なんだよね。小津はイマジナリーラインを無視するっていう当時の常識ではあり得ない映像の繋げ方をしているし、黒澤明は「椿三十郎」「七人の侍」等で描く斬新なチャンバラ描写や「羅生門」で魅せるテクニカルな原作変更など人の心を鷲づかみにする作品を作っている。ミカ監督が尊敬する溝口健二はイングマール・ベルイマンのような浮遊感あるカッコいい映像(宮川一夫とのタッグが功を奏したのだろう)に外国人が観たら日本人よりもエキゾチックに感じるであろうストーリーを演出している。畢竟、当時の作家は実験的演出がそのまま快進撃に繋がる恐ろしい天才揃いだったのだ。

 そんなミカ・カウリスマキが放つこの作品は、ストーリーよりも先に俳優が決まる制作背景を持つ。主演のベサは糖尿病を患っていて、体力的に映画に出演することはないだろうと思っていた。しかし、ミカ・カウリスマキと意気投合。ミカ監督を信じて映画に出演することを決意する。そんな中、ベサを尊敬する俳優サムリが「ベサが出るなら私を使って下さい」と申し出る。こうして、配役が決まった。ミカ監督はイタリア在住時代に考えていたローマからシチリアへ旅する、直訳すると「南へ続く道」という作品のアイデアを逆転させフィンランドの地を北上していく「北へ続く道」という形で映画制作を始めたのだ。彼の信念として旅は「何のために出る」か考えるよりも「出ること」が何よりも大切だと語っている。それ故に、ずっと音信不通だった父親に半ば強引に親戚行脚の旅路に連れていかれたピアニストがいそいそと彼について行く描写にそのことが反映されているのである。

 さてそんな作品の中身はアキ・カウリスマキ映画のノリで観たら、ちと違った。確かに、フィンランドの哀愁漂う曲はキレがあったが、ギャグがB級感漂う。一発芸連発「フライング・ハイ」かと突っ込みたくなるようなネタばかりでした。展開も、「デュー・デート」や「大災難P.T.A.」「Identity Thief」のように自由人なデブの我が儘に真面目な人が振り回されるよくある話だったのでスパイスが欲しかったのだが、そこが今ひとつパンチの効いた技を繰り出してこなかったので残念でした。でも、安心して楽しめる。特にナンパがてら北欧演歌を繰り出す親子に温かい気持ちがわき起こる作品でした。

P.S.早稲田松竹で故・若松孝二監督にインタビューしたときと同じ失態を犯した。実はこのティーチイン写真撮り放題だったのだ!残念よく撮れなかったm(_ _)m

右がカウリスマキ監督です