「25万で欧州を放浪した高校生(仮)」

三日目 トリコロールのロマン

 パリの夜明けはロマンチックである。放浪前に観た「ミッドナイト・イン・パリ」で主人公が恍惚とした電燈に魅せられ、時を超え、心溶かされる気持ち、午前2時の僕がまさに「彼」であった。地獄はのど元過ぎされば火炎放射だろうが銃弾だろうがおいしい思い出に変わっとる。さて睡眠時間9時間、はっぱ隊が喜ぶ程休息した僕は外を眺め昨日を懐古する。旅には事件がつきものだ。沢木耕太郎は一人旅の過程で様々な病・危機に遭遇した。そして時に現地人に助けられ、時に自分の活力でもって修羅場を乗り切った。この前、僕は某大学の旅行サークルに潜入した時、誰かが「パスポートや金がなくても帰ってこられる」と言っていた。人ってSの側面とMの側面があるが、Mの側面に関していえば「死を求めている」と言えよう。多くの人は自分の死を求めない。しかし、ジェットコースターのような絶叫マシンに喜んで乗る。旅行も、旅に出なければ面倒くさいことやトラブルに出会わないのに多くの人がわくわくしながら異国に立つ。おそらく、健全な人は死を求めないスリル、そうスリルを求めているのだ。死のスレスレで死を回避する術を欲する過程で「遊園地に行く」とか「旅に出る」といったアイデアが浮かんだのであろう。もし絶望の淵にいたら「死を回避」する力を失い、「死」へ直結してしまう。太宰治や芥川龍之介の死は、このMの側面における「死」の欲動が働いたからと言えるのかな。もちろん、Sに働くと暴力に移行する。Sの負の欲動は恐ろしいなり。

 さてあまりにも早く起きてしまったもんだからフェイスブックに近況報告、ネットサーフィンしながらグダグダと数時間待つ。そう、今日はホストファミリーのエムさんがパリ観光してくれるのだ。

 まずこの国はコンビニがなく、自販機とスーパーでの値段が異なるため、生活必需品を安く買える場所を探さないといけない。エムさんは、脱水症状になるからとスーパーでドリンクを買いなさい、水を安く買えるよとアドバイスする。僕はスーパーでの水の料金に驚かされる。当時のレートはユーロ危機で1ユーロ95円ぐらいだったので0.87ユーロ、つまり約83円で味付きの水を買えるのだ。大学に入った僕がその頃を振り返ると、「炭酸水大学のセブンイレブンで88円で買えるからフツーじゃね」と思うのだが、まだ井の中の蛙だった僕にとっては驚くべきことだった。

 さて、アイテムを買い揃えた(水だけだが)僕はエムさんに連れられシテ島に向かう。やはりフランスは青白赤のトリコロールの国だけあって、青が白と協力して赤を凌駕しているような国旗故に晴天が似合う。青い天井を縦横無尽に塗られる白いペンキがクールだ。そして、セーヌ川を横目に見つつノートルダム大聖堂の偉大さに気づかされる。

 ノートルダム大聖堂にいざさらばして、対岸に渡る。古本売りや安物の雑貨売りを見て、昔熱中したフリーマーケットの記憶がぱっと花開く。小学校4年生の時だったろうか、値切ってプチシリーズという食器や道具のフィギュアを大量に買ってたな。そういえば、今はコミュ障だと自分を認識していてしきりにリハビリしているが、いつごろからコミュ障になったのだろうか。何がトラウマなのだろうか?この時の私には値切って交渉するという、ナオト・インティライミみたいな高等技術を使いこなす自身はなかったことは確かだ。ただただ、チェ・ゲバラの名刺ケースをほしそうに見守るが値札なきその代物に「アメ横でも買えるか」という逃げをみせていたに過ぎなかった。
 チェ・ゲバラの名刺ケースを横目に見ながら、「ビフォア・サンセット」の舞台でもあるシェイクスピア・アンド・カンパニーを訪れる。店内を埋め尽くさんばかりの古本、褐色で構築され積みあがる塔、そして薫る素材。こんなところでエスプレッソを飲みたいな(残念ながら僕はカフェ・オ・レが好き)。

-J'aime le café au lait.(僕はカフェ・オ・レが好き)

と言ってみる。フランス語って流れる感じで素敵だ。ただR音が厳ついのはいただけない。そもそも、フランス語のR音をカタカナ語にするとラ音になるがどう考えてもハ音にしか聞こえない。マルシェはマハシェとなるし、ボンジュールはボンジューハだ。

 

 パリにはシネマテーク・フランセーズという映画博物館があるとのことなので、映画好きとしては行かない手はない。フランス版TOHOシネマズであるmk2も近くにあるしね。丁度ティム・バートン展が開催されていたのでテンションが上がる上がる。
 ティム・バートンは遊び心ある映画人だった。幼少期から、自前のフィギュアで映画を撮っていた。そして、キモカワイい絵を沢山描いていた。その記憶が反映されている映画が「フランケン・ウィニー」である。2012年度の映画は「アーティスト」や「ヒューゴの不思議な発明」といった映画愛溢れる作品が注目を浴びていたが、この作品も紛れもない映画愛ものだ。そして上記の作品の中で一番好きな作品だ。このエキスポで描かれるティム・バートンの人生が込められていたのである。例えば、冒頭の映画を作るシーン。あのハリボテ感、配置といいティムの幼少期そのもの。そう、あの映画の主人公は彼自身だったのだ。と言うわけで、「フランケン・ウィニー」は2012年度、僕の心を鷲づかみにした作品でした。他にも「マーズ・アタック!」や「シザー・ハンズ」の実際に撮影で使われたものが展示されていて飽くことなく楽しめました。もし、この展示がなかったら常設展はすぐ飽きてしまったことであろう。常設展ではマイブリッジの有名な馬の写真や、「メトロポリス」の人造人間、「ヒューゴの不思議な発明」に出てきたからくり人形など(どうやら実在する代物らしい)が適当に展示されているだけでそこまで面白いものではありませんでした。

 帰りにmk2のロケハンをすべくシモーヌ・ドゥ・ボーヴォワール橋を渡る。フランスに架かる橋は一本一本ユニークで面白い。ある橋は、絵馬の如く南京錠がぶら下がっている。そしてこの橋は流線状でグネグネアップダウンしている。こんな橋をチャリで滑走してみたい。セグウェイでも楽しそうだ。美しい芸術の街にインスピレーションがまたしても湧かせられた。んっ、mk2で何観るかって?「ダークナイト・ライジング」を観よっかな。