「25万で欧州を放浪した高校生(仮)」

四日目 日本語使いの署名師に気を付けろ

 方向音痴とは誠に不便なものだ。特に駅から降りた時のベクトルが分からない。旅行ガイドに「方位磁石を持っていくとよい」と書かれている理由がようやく分かった。というのは、現在僕は道に迷っているからだ。本日美術館巡りなり。と意気揚々モネの「睡蓮」があるオランジュリー美術館に行きたいのだが、コンコルド駅から先が分からない。ぐるぐると回る。目もまわる。しかし、流石徒歩数分クオリティ。無事たどり着いたぜと思ったらオープン時間が12:30。あれ、9:00オープンじゃなかったっけ?特別な日かな?なぜか、勝手な解釈における頭の回転だけは異常に速い。ここが現代美術館とは知らずに、とりあえずプランBルーヴル美術館に行くことにしたのであります。

 地図とは遠距離に位置する物体がいかにも近距離にあるように見える蜃気楼だ。僕の現在使っているフランス語の教科書には、ルーブル美術館周辺の地図が掲載されている。しかし、実際にコンコルド駅から歩くと行けども行けども城壁があるだけである。ただ、その久遠に続くかと思われた壁の右に穴があったら入っていただきたい。

 日本でもたまにオマージュされているあの、光を吸い込む気満々なピラミッドが顔を出す。その偉大さに僕はようやく「フランスに来たんだ」と思う。あれ?この言葉、この旅始まってから何回も言ってる気がする。

 白い三角、白い山、モンブランを目指す黒い蟻の列がある。僕はその蟻の列の最後尾に並ぶことで蟻に慣れた。日本語が飛び交っているこの半径5mの空間に安らぎを覚えるが、果たしてこんな道迷う人がモナリザにたどりつけるのかといった不安がよぎる。春は曙というが、僕の夏も曙を迎えるのであった。

 なんてこった、ルーヴルは写真撮り放題だった。日本の美術館は大概写真撮影を禁じているが、ここでは意外にも許可されている。そして、テキトーに歩いていてもモナリザにはたどり着けた。

 さて、こんなためにならない話よりも読者はためになる話を聞きたいであろう。ってことで、「パスポートは常時装備しよう」ということをお伝えする。というのも1時間前、僕はここのスタッフといざこざを起こした。また、例のごとく「ジュ・スィ・エトゥディオン作戦」を使った。チケットカウンターの人は「学生ならただで入れるよ」と教えてくれたので意気揚々と突き進む。しかし、ゲートカウンターの人が「あんたパスポートで証明できないからタダで入れることはできない」と拒絶したのだ。粘ること5分。見事に蹴散らされた僕は10ユーロを払ってトボトボと入場したのだった。時間がもったいなかったしね。デンマーク旅行でもあったことだが、海外では盥回しや門前払いが結構ある。交渉レベルに自信のない人は事前に準備、あるいはマニアックなことを避ける必要があるのだ。まあパスポートないからと止められたのは実はルーヴル美術館だけだったのだが、フランスに学生旅行するときはパスポートか国際学生証を持っていこう。

 ルーヴル美術館をしっかり堪能した後、案の定誤ってポンピデュー国立現代美術館に入る。「あれ、モネの絵ないじゃん」とがっかりする私だが、写真好きだったため、そこに展示されていた白黒写真に興奮する。白黒写真はチートである。なんでも括弧よく見えてしまうからだ。写真だと須田一政、映画だとジム・ジャームッシュ監督作が好きな僕はここに置いてある白と黒のコントラストに影響受け、「水の反射を白黒で撮ってみたいな、映画を白黒で撮ってみたいな」と感じる。そして先週、私はサークルの動画をモノクロで撮っていたことに気づかされる。繋がった。

 さて、問題は残された。なぜ私はオランジュリー美術館に行くはずがポンピデュー国立現代美術館に入ってしまったのか?答えは簡単。外見が似ていたからだ。地図上に橋を挟んで両者がそびえ立つ。まるで鏡で映したかのように。コンコルド駅に近いほうがポンピデュー国立現代美術館だったのである。もちろん、行ったぜポンピデュー、いやオランジュリー。「ミッドナイト・イン・パリ」のロケ地だしね。芸術とは芸術を飾る空間が大事である。そして誰しもが存在したことのない空間に立った時、はっと電撃ほとばしる。プルーストだって「失われた時を求めて」で傑作は全部足してもできない部分にあると語っているから、意外性が大事なのである。そう、ここは光と順路の配置がユニークだ。八の字に巡り、たどり着く卵の内部のようなスペースに青と緑のコントラストが、時を駆けて表示される。伊勢物語の芥川の世界を表す絵では、ドロドロとした時が浮遊していたが、モネの「睡蓮」は違う。時は止まっているのに動いてもいる。遠くから見ると動いているのに、近くで見ると止まっている。光が僕の記憶を更新していくせいなのか、時の揺らめきを楽しめる場所、そこがオランジュリーであった。

 

 

 ところで僕は募金に嫌悪を示す。なぜなら、募金は本当に救いたい人が救えないからだ。自分が募金をしたお金は、もしかするとヴォランティアの給料になるのかもしれない。組織の運営費に使われるのかもしれない。僕は本当に恵まれぬ人々を救いたかったら実際に現地の声を聴きとってその地の人々が本当に必要としているものを与えたい。何も「金」で解決するものではない。よく、災害が起こるとテレビではどの有名人がどれだけ募金したかを名誉のように語るが、それってただの偽善じゃない?と思ってしまうのだ。お金は目的ではない。募金をするとは手段を目的化してしまうことであるので私は嫌いだ。また、お金で解決すると貧しい人々が自立できなくなってしまうから私はさらに嫌悪する。「パパラギ」という本がある。そこではとある島国の村長が都会にやってきて、お金のために働く人に疑問を抱いている。今までお金がなくても健全に働いていた人を、先進国が「貧しいだろう、リッチになるには金を稼げ。稼げるカカオを栽培しろ」と自国の思想を押し付けて、奴隷化するのはいただけない。もし本当に貧しい民を救いたいのであれば、その民が「金のために働く」のではなく「楽しみのために働く」のだということに気づかせなくてはならない。そのためには、道具を与えよ。パソコンでもいいし、鍬でもよい。それで自分たちで何か生産できる力を育てる。キャリアクリエーションを手伝うことが最も彼らのためになるのである。だから僕は募金をしたくなかった。

 しかし、そんな大義名分もあっさり崩されてしまった。悲劇の舞台はコンコルド広場。あのオベリスクがある近くである。「ニホンジンデスカ?マリオ、ホンダ」とエキゾチックな男が私のもとに現れる。どうやらユニセフのようだ。署名お願いしますとペンを渡してきた。僕は元々ストレンジャーなベールをまとうため、今でも有楽町駅をぶらつけどテレビの取材を受けたことがない。そんな私に、日本語で話しかけてくれる外国人がいるとは。僕は日本語に飢えていたため、署名をしてしまった。すると20ユーロ募金せよと言ってきたのだ。募金ごときに最低も糞もあるはずがない。自分の気持ちを募金するわけだから。「ションジ、ションジ」と彼は言ってくる。おそらく、両替はするといっているのだろう。しかし、20ユーロはぼったくりだ。よくよくロゴを見るとユニセフのマークが汚い。これは怪しい。僕のコマンドに「逃げる」があったはずだが見当たらない。そう、足ががくがくして動かないのだ。もしこれが高校時代部活が一緒だったヤンキーエス君だったら、持てる脚力でションジの銭を奪って逃げたであろう。しかし、僕にはその勇気はない。署名の文字を消して、ノーマネーと言うものの、一度書いたものは取り消せないといってくる。交渉10分。僕は10ユーロ払い心に致死量のダメージを受けた。ションジマンは僕をにらんで、まだションジ20ユーロとほざいている。後に分かったことだが、フランスにはこの手の詐欺師が多いらしい。でも某旅行本のトラブルコーナーには一切記載がない。おそらく、本物の募金師が存在するからであろう。そして、日本語使いは募金詐欺師の中で一番の強敵だ。日本人は海外で外国人に日本語を使われると親近感湧いてしまうらしく簡単に騙されてしまうらしい。私はイタリア行ったときに多くの日本語使いの詐欺師を見た。どうやら海外での日本語使いは大概詐欺師らしい。

気を付けろ。

迫る募金詐欺師はアウトオブ眼中で。

 

 さて、映画好きとしてはフランスの映画館を視察せねば。といきなり衝撃。日本の映画館料金は高校生・大学生1500円(TOHOシネマズは1年後に高校生1000円になる)だが、ここでは4.9ユーロ。なんと、約450円で最新作が見られるのだ。これ25歳ぐらいまでこの値段で映画を楽しめるから驚き。流石芸術大国フランスである。国が映画産業を守っているだけに、制度がしっかりしているのかな。早速、最新作「ダークナイト・ライジング」と「ポンヌフの恋人」を撮ったレオス・カラックス最新作「ホーリー・モーターズ」を観る。前者は前作が強烈に深く熱い作品であったせいだろうか、確かにバットマンというヒーロー不在の状態で市民が強敵に挑む斬新さはあったが、後半の展開が雑すぎてちとがっかりだった。後者は、シュールすぎて爆笑だ。ゴジラの音楽と共に、クレイジーガイが花を貪り女の子にお痛する描写に数少ない観客と共に爆笑する。そう、ここはフランスだ、外国だ。日本のように笑いの公害を外に排出しないようにといったバリケードをひかなくてもよいのだ。それ以来、私は日本の映画館では爆笑を隠さなくなった。「中学生円山」を観た時の失笑の渦中で爆笑する私は日本人には痛々しく映ったことことだろう。

 さて、このmk2。日本の映画館とはずいぶんと違う。まずパンフレットが販売していない。パンフレットやチラシを置いてある国は、ドイツ、韓国、オーストラリアぐらいのようだ。しかも小説よりも高い値段でコンテンツの少ない代物パンフレットを売る国は日本だけのようだ。mk2ではDVD販売コーナーと雑貨屋、カフェ、コンセッションがありました。なんと邦画のくせして日本ではなかなかお目にかかれないエロ映画「愛のコリーダ(無修正版)」が置いてあるではないか!買おうか迷う。アキ・カウリスマキのDVDボックスも捨てがたい、シュヴァンクマイエルの「サヴァイヴィング・ライフ」は...なかった。こんな感じで映画好きは数時間たむろできる場所。やっぱ映画館っていいな。

 そして、一番話したいことは出口のことだ。ここではエスカレーターを上ったら降りられないのだ。劇場内に別の扉があり、そこから伸びる階段で降りるため下りエスカレーターは必要ないとのこと。「ホーリー・モーターズ」の劇場をいこうと思って、下りエスカレーター乗るはずがうっかり上りエスカレーターに乗ってしまった私は途方に暮れる。運動神経のない私が50mもあるエスカレーターを逆走できるはずがない。映画まであと10分。焦る僕。周囲を見渡し脱出経路を探す。奇跡的に非常階段みたいなのを発見する。下る。そして受付?隙を見て通過さ。無事に観れたぜ「ホーリー・モーターズ」。観てなかったら、上記のような解説はしないしね。映画男は映画を観るためだったら全力を出すのさ...to be continued