「25万で欧州を放浪した高校生(仮)」

六日目 のび太くんの恐怖が今ここに...

 ぷ~ん、僕の深い夢の世界に忍び寄る。半リアル半ファンタジーの狭間にある灰色の世界を手探りでそのテロリストを探す。彼らのゲリラ戦法にうんざり、ベトナム戦争のアメリカ人のように蒼白な顔で朝を迎える。2時間かけてようやく奴を倒す。しかし、またどこからかぷ~んと羽音の爆撃を仕掛けてくるのだ。そう、「蚊」は羽音を聞いただけで僕の精神に多大なる被害を与える存在だ。そして精神的被害よりも肉体的被害がさらに強いためやっかいだ。僕の腿はそんなに旨いのだろうか。

 さてテンション低いまま、不吉な予感と赤い痒みを抱え映画発祥の地、リュミエール博物館に向かう。それにしてもメトロって僕のようなスライム者でも容易に乗れる代物だ。自分の目的地と、そっち方面の終点さえ確認すれば回数券で事足りる。交渉といった高尚なこと介さずすむ。沢木耕太郎に憧れているくせに外国人に対する会話を拒絶しようとしてしまっている自分に葛藤を抱く。一年前のアメリカ留学の時抱いた葛藤と同じだ。日本語堪能な外国人がいる集団から離れてみたはいいが、孤立し悪い意味でのニル・アドミラリイ、無感動に陥った。街は美しいが、想像以上の波乱はなく淡々と時が流れていく。現状を変えようとするも遅々として動かず苛立ちを隠せない。実は帰国するまで一人旅に伴う副作用を詳しく認知してなかった、「深夜特急」を読んだにも関わらず。沢木耕太郎やナオト・インティライミ、大学で出会う旅行者が皆口揃えて言うのは、「一度は鬱に陥る」。カルチャーショックに最初は驚くが、次第に変化に自分がついていけているのか、このままでいいのか葛藤を抱くのだ。
 そう僕は今日、影なる自分と対峙する決戦の時だった。

 モンプレジール・リュミエール駅に降り立つ。ここから徒歩3分らしい。しかし...迷った。手元の地図を見てもここがどこだが、わからない。メトロのマーク、のどちら側に出たのかが分からないのだ。勇気を振り絞ってばあさんに道を尋ねてみた。たどたどしい英語だったが、優しいばあさんだ。そして灯台下暗しのところにそれはあった。もちろん撮ったさ、世界最初の映画「工場の出口」の撮影場所で写真を。当時の情景を思い浮かべながら。リュミエールって名前からして映画を作るために生まれた存在だろう。なんたって、リュミエールってLumièreと書いて「光」という意味なのだ。映画は光の魔法で描く芸術だけにすげーと感動。シネマトグラフもちろん、置いてあった。リュミエールの作品上映も行われていて、「水をかけられた撒水夫」の滑稽さに笑う。

 ミニチュア博物館いこうと思っていたら案の定迷子になる。そこでリヨンの街を彷徨ってみる。さすがにリヨンは2日で十分だな。特に見どころが多いわけでもない。平和だから留学にはぴったりかもしれない。パリは募金師やハードな物乞いが多くて常にシールドを張ってなければいけない。それに比べると平和な空気がそこに流れている。少年が滑り台で遊んでいる。昔、写真のような滑り台で遊んだな。僕も年取ったなと痛烈に感じた。

 

 リヨンには所々に水汲み場がある。旅行者はペットボトルで給水できるのだ。ちと飲んでみた。日本の水に比べると硬くて飲みにくい気がした。僕は、ここに来て嵌ったオランジーナ(オハンジーナにしか聞こえない)をお口直しに頂く。

 魂が奪われた僕はマックへ誘われる。実は今日は休日で大概の店が休みなのだ。昔、ドラえもんで毎日が休日とういう状況を彼が創り出して、のび太は何もすることがなく苦しんだ話があるが、ドラえもん、どこでもドアかタイムマシーンでのび太をヴァカンスシーズンの休日におけるフランスへ連れてった方がいい人生経験をさせられるぞ。本当に何もすることがない。僕はよく待ち合わせ時間より早く来てしまったら、本屋で暇を潰すのだが、それすらやっていない。しかも、エムさんが仕事からホテルに帰るまで部屋に戻れないらしいから暇を数時間潰さなければならない。ふれあい街歩きがここまでエクストリームだとは思ってもなかったのだ。仕方なしにマックで暇を潰す。

 明日でリヨンを去る。留学や仕事で訪れるかもしれないが、旅行では10年行かなくてもいいっかなと思った日だった。さらばリヨン、そして激動の日々の歯車が動き始めるのだった...つづく。