「25万で欧州を放浪した高校生(仮)」

九日目 エッフェル塔の罠

 パリには様々な彫刻が飾られているが、今の僕はまさにこの銅像と同じ心持ちであろう。まず、オルセー美術館に行けなかったのだ。地下鉄にはパリ市交通公団(RATP)が運営するメトロとフランス国鉄(SNCF)が運営する 高速郊外鉄道RER(余談だが仏検3級の書き問題でこの単語の正式名称を書けという問題がある。正解はRéseau express régional)の二つがある。メトロは簡単だったのだが、RERは分岐はあるわ、駅のホームにたどり着くまでに時間が掛かるわ、なんか改札が硬派だわで中々乗る気は起きなかった。しかし、オルセー美術館に行くには、RERのC線が便利らしい。乗ってみるとメトロに比べて清潔感がある。メトロは降りる際に意外と硬いレバーを押し上げないといけないのだが、RERはボタン式だ。ただ、メトロ同様ホームに入った瞬間から静止してもいないのにドア開閉できるから怖い。実際に、僕は物理の授業で習った完成の法則を実体験すべく、まだ完全に止まっていないRERから飛び降りてみる。案の定、体に伝わる反動。運動音痴なくせに反動に立ち向かったら見事にこけた。物売りの移民にあざ笑われる俺。盗れるもんなら盗ってみろと思いつつ降りてみたら、天罰だろう。全く見当はずれな駅だった。どうやら逆ベクトルに進行していたようだ。最近は、自主自立の精神で地図を読む能力を向上させたが、今思えばよく帰れたねと思うばかりである。

 

-Qu'est ce-que vous avez pris ?(何食ってたの?)

旅行と言えば飯だが、ここから数日間、僕の活力を奪ったのは質素な食事と言えよう。

今朝は何も買ってこなかったため、エムさんの家からインスタントラーメンと何を思ったのかお茶漬けを組み合わせて「茶麺」を作ってみる。「茶麺」と聞くと、京都の料亭に出てきそうなイメージがあるが実際は悲惨だ。私の今通う大学では留学が必修で来年半年、フランス留学するのだが、居住スタイルはホームステイだ。そして、そのホームステイの様子だが、どうやら放任主義らしい。キッチンと寝床は用意するから勝手に自活せよという構えとのこと。その自活システムはエムさんの家でも採用されていて、僕は猫のように気ままに散歩し帰宅する日々を送っていたのだ。朝食を買い忘れた僕だったが、ここまで凄惨を窮めた料理ができるとは思ってなかった。エムさん、ラーメン勝手に使って申し訳ありませんでした。 

 「太陽が眩しかったから」ではない。この不満げな肖像は、エッフェル塔に対する不満を訴えている。我ながら失礼だが2時間待った割にはしょぼかったのだ!まず、エッフェル塔にはエレベーターを使って上る方法と階段を使って登る2つの方法があって階段使いの方が3.50ユーロと安いのだ。

 オープン1時間前なのに長蛇の列。列。列。日本人は長蛇好きらしい。ヒューマン・ストリーム、群衆が嫌いな僕でも並んでみた。2時間後、仕舞った!と思う。受付で「階段で上行きたいんですけど」とたどたどしい英語で尋ねると、指で遠くを示して「オーヴァーゼア(あっち)」と僕よりかは流暢な英語で道しるべをしてくれた。なんとエレベーター受付だったようだ。10ユーロ近くも払いたくない私は長蛇の列を悲しい目線で抜け、階段専用受付へ...見事10分で階段にありつけました。登るぞ。

 無事大学生になった私はよく大学の移動で階段ダッシュをする。球技も水泳もしたくないが、マッチョにはなりたい私は6階までダッシュしてよく息切らす。階段ダッシュに憑りつかれた者たちよ、エッフェル塔は駆け抜けられんぞ。ここでもヒューマン・ストリームっちゅうものがある。赤ちゃん連れが前にいてトラフィックジャム、渋滞発生なう。階段を駆け抜け抜ければ5分で登頂できる道に30分費やす。久遠に続く階段の旅路は苛立ちを助長する。そして登頂、あれ?スカイツリーより浪漫に欠けるぞ!確かに景色は綺麗だったが、7月にスカイツリー登頂したばかりの僕にとって物足りなさを感じた。おそらく、待った時間だけの価値はなかったのであろう。最初から階段を使っていればよかったのに...残念。

 彼はキューバからの使者クレープマンである。ガレットを食べたかったが、店の下調べをしていなかったのでクレープを食べる。日本だと、今でも恥じらいから買うことに躊躇するが、旅行するとリミッター解除発動だ。チョコバナナクレープを陽気に作る彼に惚れる。実はこの国、女よりも男の方が魅力的だ。花より男子、イケメン多いぜ。彼は日本を侍や忍者の国だと思い込んでいた。また、空手できそうだと言われたがブルース・リーではないぞ僕は。少林寺拳法2級はもっているものの下手です。Je suis désolé!ご希望に添えなくて済まぬ。でも、ここは旅先はったりが効くから、テキトーにできるアピールする。テンション高い者旅を楽しめるだ。

 フランスの悪戯アートは芸術的だなと思ったら、受け入れがたいアートが。女の彫刻の尻の部分に卑猥な単語が!流石にドン引きした。

 パリと言えば、芸術の街、綺麗だぜと思ったら大間違い。匂いにおいてはスラム街だ。大学の臭いだ。まあハイヒールが生まれたのも町中に人糞、犬糞が散乱していたから、マイペースな国民性だからなのか、正直視覚的にスラムだったオランダ・アムステルダムの街よりも臭いにおいて劣っていた。その臭いを辿っているうちに、僕は「下水道博物館」に到着。3.50ユーロ払って入ってみる。強烈な下水な香りが、カーキ色の筒ないを渦巻く。しかし、普段中々入れない下水道の世界に次第に魅せられる。気分はジェームズ・ボンドだ。

 下水道の最深部に行くとガンツが眠っていた。決してウェポンや二宮和也が内臓されているわけではない。トンネルを掘る際に使われたらしい。カーキ色を吸い込む目の前のブラックホール。ドイツ語でGANTZからTを除いたGANZというと「完全に、全部」という意味だが、この球にはまさにGANZという名称が似合うであろう。ほのかな刺激臭をもキャンセルするこの空間に圧倒された僕は「下水道博物館」に満足するのだった。

 今日から、初めてホテル暮らし。エムさんの知り合いらしく「クスクスおじさん」と呼んでいた。確かに、彼のクスクス料理は美味しかった。さて、部屋に案内されてびっくり秘密基地だった。屋根裏部屋のようで天井が直角三角形である。ここで数日過ごすのだ。気が付けば、フランスに来て一週間経とうとしている。思い返すと、危ない橋ばっか渡っていた僕だ。こんなんで一週間以内に訪れる国外脱出ロンドンへの旅路は上手くいくのかと不安になるが、「なんとかなるっしょ」という方向音痴ならではの自信でもって押し殺すのだった。