「25万で欧州を放浪した高校生(仮)」

十日目 オトシモノスリガアラワレタ

 昨日「ここから数日間、僕の活力を奪ったのは質素な食事と言えよう。 」と書いたが、それの元凶がまさにこれ。コンビニなど皆無なこの国において怪しいケバブ屋でケバブを買う勇気を失った僕が買ったものがこれ!プリングス、食パン、ツナ缶、そして謎のココナッツ炭酸ジュースだ。ここに来て、3年の歳月かけてようやく実用的利用がされた七つ道具。いや、本来の使い方で使わなかったことにこのライターは気づく。ナイフをスプーン代わりとして使っていたのだ。そして、昨年シンガポール修学旅行にて大量の決して美味とは言えず皆の喉から全会一致、不味いと評判だったココナッツジュースを友人と協力プレイで飲むという散々な目にあったのに、その日の僕は間違っていたようだ。さりげなく僕の舌に刺激を与えるがしょぼさは変わらず。海外でのココナッツジュースに対して不信感を抱く。

 今日こそはとオルセー美術館にたどり着く。フランスの美術館・博物館にしては珍しく写真禁止である。そしてルーヴルよりも面白かった。実は僕はこの旅で彫刻の素晴らしさに気づく。絵画は遠くから見て、近づいて色のノリ具合を確認し、再び遠くから見て終りである。しかし、彫刻は360度上から、下からと見どころが多いのだ。オルセーには今にも動き出しそうな作品が多い。彫刻って昔のフィギュア職人だから、女性のセクシーさの魅せ方もテクニカルである。僕がオルセーで気に入った作品は「弓を放つ人」である。あと0と数コンマで彼の右手から飛び出しそうな弓。太もものマッチョさに惚れた。カッコいいな。「アベンジャーズ」の弓使いを彷彿させるクールさがそこにあった。

 もちろん、絵も十分楽しめます。ゴッホの肖像画が沢山展示されているが、時代を追うごとに渦が増えていくシュールさに興奮した。なんたって、僕の小学生図工の時間で描いた卒業制作作品である「自画像」はまさにゴッホの肖像画に影響を受けたからである。

 某旅行ガイドブックには募金師のことは全く記載されていないが、「食べ物系スリ」と「オトシモノスリ」については掲載されている。前者は主に少年少女が実行。ケチャップやアイスクリームを観光客につけて、観光客が慌てているうちにスリをするとのことだ。少年少女の攻撃力は低いが、影から保護者が監視していたり人海戦術を仕掛けてくる。大学生になって私は様々な旅行人と会話したが、保護者が強いらしい。下手に攻撃するとカウンターに遭うらしい。下手するとポリス沙汰になるから、コマンドは「こうげき」ではなく「にげる」を選択しよう。

 後者は、この日に遭遇する。急に「ヘイ!」と後ろから声をかけられる。毛むくじゃらの怪しい人が安っちい金の指輪をちらつかせて「ユアーユアー?」と聴いてくる。ガイドブックでその手法を知っていた私は「にげる」を選択した。本当は「ごうだつ」を選択したかったのだが、僕はしがない、そして不甲斐ない高校生。池袋ウェストゲートパークや歌舞伎町の人間ではない。旅先では身の程を知ることも大切なのだ。それに、小学生の時にガラクタ集めに嵌ってはいたが、あの金指輪に魅力は一切感じなかった。

 「逃げるが勝ち」これ正解。C'est vrai!

 さて、今朝の質素な食事があたったのか?それとも疲れなのか?吐き気に襲われる。自由の女神像見に行くつもりだったが断念する。こういう時は休息が一番なり。部屋でプリングスを食しながら、新藤兼人デビュー作「愛妻物語」、「最強のふたり」、「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」の三本立て。「愛妻物語」...映画としてはまだ「あまちゃん(じぇじぇじぇではない)」だった新藤監督の技術が観られる。もろ、自分が師匠・溝口健二に「これはシナリオではありません、ストーリーです」と言われ、病弱な妻に励まされこの映画を作る過程を描いているのだ。やはりこの本を書いている筆者もそうだが、創作の第一歩は自分の人生を覗き見ることから始まるらしい。二つ目に観た「最強のふたり」。これはリアルなフランスを描いていて、丁度イメージと掛離れているフランスに絶句する僕にとってとてもエキサイティングな代物だった。多くのフランス映画において、黒人や移民は出てこない。特にヌーヴェル・ヴァーグに関しては白人の、白人による、白人のための映画になっていると言えよう。実際には、全体の4割ぐらいが黒人や移民なのである。メトロに乗れば、満員電車だろうと物乞いが金をせびる。パフォーマンスで金をもらおうと必死になっている。日本にいる黒人は陽気で面白い。特にアメ横にある「モーゼスさんのケバブ」の黒人店員は「モリモリ、オマケスルヨ!」とハイテンションで絡んでくるから楽しい。しかし、この地の黒人は「怖い」。目つきに殺意、憎しみが宿っている。白人が時折黒人に対して嫌悪を抱く気持ちが少しわかった。でも僕は信頼することをあきらめないぞ!

 最後に観た、「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」。妹のいる前でエロ映画を観ることが禁じられている我が家から何万キロも離れた地にいるため堂々と鑑賞。竹中直人のエロティックな声に爆笑する。明日は、ずっと気になっていた「エロチズム博物館」に行こう。そういう気にさせたのが、まさにこれだった。夜も更け、ヌードの夜を満喫した高校生がここにいたのであった。