「25万で欧州を放浪した高校生(仮)」

十一日目 ヌードの朝

 実は僕の記憶にはないのだが、どうやら僕のニコンカメラCOOLPIX S9300に付属されているUSB充電器のシステムを知らなかったようで、この時代の写真は多くはiPod Touchで撮られている。その充電器のシステムについて知ったのが1年後のデンマーク旅行時だ。何故か、4日目で充電していたにも関わらず、チャージされていないことに気づく。半年前のイタリア卒業旅行でも同様の事態が発生していたので「怪しい」と思い、その時も愛用していた「それ」でググる。するとどうやら特殊な充電器らしく、電力供給されていて且つ電源が付いているパソコンからしかチャージできないのである。i旅先にはiPod Touchを持ってこう。ホテルやアップルストアのWi-FiでFacebookに繋いで、クラウドのように自分の写真を全部アップロードする。そうすることで、万が一盗難や故障で、データが吹っ飛んだ時でもこのように写真を掲載することができるのだ。それに、iPod Touchはアップル社が開発し、世界中に広まっている機械だがら、どこの国でも充電・使用ができるのだ。iPhoneを海外に持っていって、うっかり電波をつないでしまい高額請求に遭う危機も回避できるため、僕の心強い味方である。そして、何故か電源切れたはずのカメラが起動していた。その奇跡を信じて今日は暴れようと心に決め、いざ出陣だ。

 さて、そんな心強い味方を引き連れてやってきたのはモンマントル。パリの歌舞伎町である。目当ては、ダリ博物館に行ってシュールな世界を堪能すること、映画「アメリ」で使用されたカフェ・デ・ドゥ・ムーランでクレーム・ブリュレを叩き割りながら味わうこと、そしてなんといってもエロチズム博物館に行くことである。あれ、「ムーラン・ルージュは?」。18歳の少年にはGが掛かり過ぎてまだ不可侵領域だった。大人の階段は高し。20歳になったら行こう。フレンチレディダンスを観たろう!

 ダリ博物館はこの旅最大の難所に位置する。アベス駅から徒歩7分。上野の山を越えた世界のごとく入り組んでいて、方向音痴には非常に辛いロケーションである。案の定迷子になる。本当に、スマートフォンのマップ機能がない旅というのは困難を極めるのである。結局、予定が遅延し気が付いたらNHK「世界ふれあい街歩き」で紹介されていた壁抜けの男像前にたどり着いてしまう。俺をダリに会わせてくれ!とお祈りして、「アメリ」のカフェで作戦会議することにした。

 カフェ・デ・ドゥ・ムーラン...お洒落な映画の舞台はダーティゾーンにある。モンマントルから漂う危険な雰囲気。怪しいポン引きが朝っぱらから客引きしている。殺伐とした駅前にそびえ立つムーラン・ルージュの右側に沿って坂を登ると、ありましたクレーム・ブリュレの店。あれっ意外とぼろい?

 「アメリ」はパリに憧れる女子の基礎教養として位置づけられるお洒落映画だが、この映画を撮った監督ジャン=ピエール・ジュネはシュルレアリストだ。何たって、デビュー作「デリカテッセン」はカニバリズムの話だし、「エイリアン4」では個人的にシリーズ中最も気持ち悪い生物描写があった。「ミックマック」では、頭に銃弾が刺さった男が踏ん張る話だ。元々ドロッとしたシュールさを得意とする監督なのである。次第にモンマントルに異色に光って見える「アメリ」のカフェが風景と同化した。

 英語メニューあったし、フランスにしては珍しくイングリッシュ流暢な店員いる場所だったため、難なく注文。待つこと10分。クレーム・ブリュレとショコラクリームが添えられたカフェがやってきました。赤系統の色で彩られる店の雰囲気に、こんがりと表面焼きあがるプディング。茶色と白が入り乱れるカフェは非常に似合う。僕がここで映画を撮るなら、セピア色でこの言葉にしがたい興奮感情を描くであろう。冬場学校に張る氷を叩き割る時のように、そっとでも力強く叩いてみる。パシィパシィパシィと、ひびがクレーターに変わっていく軌跡に胸躍らされる。一口食べると、カラメルが僕の舌を抱き込む。カフェの苦味と融合して程よい甘さが創り出され僕を愉しませる。和菓子は苦い茶と友になるが、その理論は海外でも変わらないようだ。ここは、店員の接客もトレビアンなのでモンマントル来るなら絶対行こう。

 カフェ・デ・ドゥ・ムーランにはWi-Fiが通っていたのでマップ機能を使ってルート確認する。そして、再び迷うこと20分。無事たどり着けました。まさか急な階段上にあるなんてね...思わないよねという先入観が目的地到着を遅延させたのである。そして、必死になってたどり着いた地であるので館内非常に面白かった。ダリの有名な溶ける時計を様々なスタイル。絵画ではもちろん、銅像でも表現されていた。もちろん、流石にドラえもんの道具のような代物は未制作でした。

 ダリ博物館にはプリクラコーナーがある。とは言っても日本のプリクラのように派手な加工ができるわけではない。上野駅にある証明写真ボックスとさほど変わらない。3ユーロ払って、撮ってみる。顔の輪郭を揃えるのに四苦八苦。ニッチな輪郭のようだ、僕の顔は。何とかちょび髭を装備した。これで僕もシュルレアリストだぜ!

 さて、モンマントルのポン引きは国際派ということを語らずしてエロチズム博物館の話はできん。僕がダリ博物館から来た道を引き返して、本日最大のイベント会場であるエロチズム博物館を目指していると「オンナイラナイ?」と片言の日本語でずっしりした黒人の巨漢が迫ってきた。しかも、手に持っているのはコンドームではないか。いや、普通にチラシだった。思春期の妄想は激しいものである。そして「俺昼間っからヤラナイシ、18歳だし、怪しすぎだし」とよくもまあエロチズム博物館行く者がしょうもない言い訳を考えている僕をこのライターは嘲笑するのだった。どうやら、ここは日本人がよく訪れるらしく、看板も日本語と共に記載されている。それにしても、昼間から客引きしているなんて歌舞伎町でも観られない光景だ。確かに、夜になると歌舞伎町の客引きも激しい。ロボットレストランにバイト仲間と行った帰りに、男同士で歩いているにも関わらず「ホテル(もちろんラブホテルである)いかがですか?」と言ってくる有様。俺らってゲイゲイしく群行していたように彼らの目には映っていたのだろうか。希望に添えなくて申し訳ないね。

 しつこくつけてくるポン引きを回避して、エロチズム博物館にたどり着く。軒先には昨年話題を呼んだ「ムカデ人間2」に出てきた巨漢(ローレンス・R・ハーベイ)そっくりの安っぽいブロンズ像がお出迎え。無駄な光沢。脂ぎったおっさんの光沢を見事に再現できているグロテスクな銅像横のショーウィンドーを眺めていると、日本語で「年齢関係なく楽しめます」と書いてあるではないか。おう、ここは北斎レベルの「芸術としてのエロチズム」が展示されていることへのアピールかと感心してしまった。危ないフェロモン漂う街だから、硬派なことするにはインフォメーションが必要だもんね。

 ...5分後

 それは大の3乗間違っていたことに圧倒される。6ユーロ払って入場。エントランスから俗にいう「大人のオモチャ」の博物館だ。エロビデオ、エロツール、ポストカード、店員はやる気なさそうに4ユーロを返し僕を通してくれた。スタート地点の最上階へエレベーターが僕を導く、まるで「神曲」のダンテのようだ。ウェルギリウスのようなミステリアスな案内に誘われ、地獄門へたどり着く。非常にクレイジーな男性器絵図の嵐。北斎の「蛸と海女」を超越するエロ世界が広がっていた。エロス・イン・ワンダーランドである。第一の世界からおぞましい世界観に圧倒され、精神的致命傷を受ける僕。しかし、「神曲」同様。最下層まで行かねばならぬ。階下へ。次の階では、部屋にはモニターが設置されていて、これまた僕の頭の中の消しゴムが全力でかき消すほどのトラウマ映像が流されていった。精神的レイプを受け続け、それ以降は断片的にしか残されていない。江戸時代の日本の官能絵図もあったろう、そして多種多様の男性器を魅せられたろう。一階のお土産コーナーでは沢山のエログッズがあった。しかし、ピンク暖簾童貞には直視することができず、そのままゲット・アウトでした。興味本位で入ってはいけない。それなりの勇気をそこは要求するのでした。 

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コメント: 1
  • #1

    こまってぃ (土曜日, 16 11月 2013 21:41)

    「世界ふれあい街歩き」の壁抜け男像、すごくなつかしい~。あの番組ずっとみてたのに、BSでしか放送されなくなってから観れなくなってしまって残念。あそこに行ったのね!でも実際はあの「街歩き」に出てくる人ようないい人たちばかりではなかったみたいで残念…。(やっぱりヤラセだったのね)
    個人的日にはエロティシズム博物館、度胸試しに行ってみたい。留学中行くことを目標にします!!、