「25万で欧州を放浪した高校生(仮)」

十二日目 ガレットを探せ!

 フランス来たのならガレットが食べたい。質素な食事で人生を終わらすまいと僕は考える。ガレットとはブルターニュ地方の郷土料理でそば粉を使用したクレープに卵やベーコンを乗せた、いわば「ご飯クレープ」と言ったところ。実はそば粉は麺を作るためだけに存在するのではない。

 「地球の歩き方」で吟味、ラ・クレープリー・デ・キャネット(La crêperie des Canettes)に狙いを定めて行く。もちろん、ドジな僕でも営業時間は確かめるさ。しかし、フランスの夏はヴァカンスの夏。グラン・マガザン(高島屋のようなデパート)でも勝手に休業するあの「夏」である。フレンチ、オシャンティーな外見から閑古鳥が鳴いている。もしやと思ったそのもしや、9月まで休業でした。折角、方向音痴もパリ生活に慣れ道に迷わなくなり、厄介なところにある「ここ」にたどり着いたのにがっかりでした。でも、今日は「食わねば」、ガレットを食わずして今日は終えられるかと我が闘争を抱くのであった。

 続いて、向かった店はラヴォン・コントワール(l'avant comptoir)。クレープとガレットの専門店らしい。ただ、この店初心者には厳しい店だ。メニューが筆記体。読めない。苦し紛れにchocolat、チョコレートが読めるぐらいだ。ガレット...チョコラット...シル・ヴ・プレと苦し紛れに注文する。ウィウィと承るテキトーそうな店員。でも生でクレープ作りを見られるのは楽しいな。そしてお会計。っとなんと金銭授受が上手くいかず硬貨がクレープに降りかかる。店員がノープロブレムと言ってそのまま作り続けるではないか。これがフランスの国民性かと思っていたら、後ろに並んでいたおばさんが、「ちょっとあんた!」とフランス語で激怒しているではないか。店員はペコペコ誤り、作り直した。おばさんはどの国でも強い。僕に「坊や、安心しな、おじさんが作り直してくれるから」というようなことをいい、去って行った。個人主義の国だと思っていたが、こんな親切な方もいるんだとと感心していたら、ガレット...あれクレープじゃん。ごく普通の東京で頼めるクレープより遥かにしょぼいクレープが出てきた。ここは難易度が高かった。もう一軒、しっかりしたところでガレットを頼もうと思う次第だ。

 3軒目、ラ・クレープ・リ・ドゥ・クロウン(La Crepe rit du Clown)に向かう途中でレオン(Leon)というムール貝専門店を見つける。エスカルゴは高級食材らしく今の僕の能力では食べられなさそう故にムール貝に妥協しよう、2000円くらいなら出せそうだ、明日ここに行こうと胸を膨らませたのであります。

 閑話休題、ラ・クレープ・リ・ドゥ・クロウンは本当にナイスなレストランだ。ガレット専門店で旅行者も多く訪れるためか、英語メニューもある。しかも、ちょび髭の店員が優しくメニュー解説してくれる。店長のオススメを尋ねると、スタンダードな卵とベーコンのガレットがよかろうと答えてくれる。僕は炭酸水と共にそれを頂くことにした。フランスを訪れて、こんなに炭酸水がおいしいとは思ってもいなかった。小学生ぐらいの女の子でも炭酸水を喜んで飲む国に最初、なんてセレブな国だと思っていたが、この国の炭酸具合は絶妙で確かに旨いのだ。また炭酸水は食欲増進の働きがあるらしく、さっきあれ程ボリューミーなクレープを食べたのに炭酸のおかげでお腹リセットでき、ガレットを楽しく待つことができたのであります。

 さて、提供されたスタンダードガレットの味は...追い求めただけありました!クレープとは違い、生地そのものの味に重みがある。そして卵とベーコンが絡む。塩と胡椒で演出されるスパイシーさが僕の気分を向上させる。やっぱり本場で本物を食べたいよね。僕が高校2年生の時に気取った気分を味わいたかったから、部活までの2時間を過ごした吉祥寺のクレープ屋さん(今はあるかどうかは知らない)。確かに美味しかったが、本場には気分的に負けてしまうよね。おじさんにメルシー!と元気よく礼を言い、満足げに立ち去る僕でした。

 パリの裏通りにはよく映画館がある。当然ミニシアターだ。フランスでは国が映画を守っているため、斬新な映画を生み出しやすい状況と言えよう。映画料金も日本の1800円とは打って変わり非常に廉価だから、お気軽に芸術と触れ合えるのだ。今の日本の映画館事情は、シネコンによる収益を考えずにミニシアターものを上映し始めてから恵比寿ガーデンシネマや銀座テアトルシネマなどが窮地に陥り閉館する惨事が相次いでいる。そして、邦画もテレビ局筆頭に様々なスポンサーをつけすぎてマンネリ化した作品が大量に出回る時代となった。アカデミー賞も最近はクオリティが下がる一方である。やはり、映画という芸術分野に民間は合わないなと感じた。国が守ってこそやりたい放題できる。もちろん、売るための文化としても韓国のように配信できる。このままテレビ局が邦画製作に関わり続け、シネコンが余った劇場の穴埋めとしてミニシアターものを上映し続けたら、日本の芸術が腐敗してしまうなと危機感を抱いた。そういった苦境に立ち向かって、僕がグザヴィエ・ドランみたいな映画を作ればいいって話だけれどね。

 「ラスト・タンゴ・イン・パリ」や「インセプション」「地下鉄のザジ」で使われたビル・アケム橋に歩いて行ったら想像以上遠かった1時間ぐらいかかった。途中、日本会館前で大量の黒人にしょぼいキーホルダーを買わせられそうになり、回避したと思ったら今度は路上賭博(3つのコップのどれかに球を入れていてシャッフルし、どこに入ってるかを予想するイカサマし放題のインチキ賭博)に巻き込まれそうになるが無事逃げ切ってここまで来た。旅のスリルって、巻き込まれている間は精神的強い緊張を味わうが、すべて終わってみるとドラッグのように再び挑戦したくなる。なんたって、スリルを超えた先の絶景や達成感は日常生活じゃ、特に学生生活じゃなかなか味わえないからね。さあ、映画のロケ地に来たぞ。これは、「インセプション」でディカプリオが鏡にぶつかるシーンのあそこである。地平線まで続きそうな柱によるアートもカッコいいけれど、回れ右、左も是非していただきたい。美しい川。エッフェル塔と川を撮るならここだね。ちょっと見どころスポットが少ないパリ15区16区にあるが映画好き写真好きなら来ない手はないぞ。

 パリにも自由の女神像はある。面倒くさい場所にあるが。フランスがアメリカに自由の女神像を送ったお礼としてパリのアメリカ人が作ったとのこと。想像以上に小さい。お台場にあるのとさほど変わりはなかった。個人的に今まで見た三大がっかりに入れたい代物である。ちなみに、僕の三大がっかりは...

1位 人魚姫(デンマーク・コペンハーゲン)

そこにたどり着くまでの銅像で大満足。岸にちょこんと虚しく設置されている人魚姫は空しく僕の心に空しく響いた。デザインミュージアム行くついでに行く心構えで行こう。

2位 自由の女神像(フランス・パリ)

地味としか言いようがない。橋の上からは確かにダイナミックに女神が立っているが後ろ向きだ。Wikipediaに掲載されている写真のように彼女の顔を撮りたければ、ハイクオリティのカメラ持って望遠でミラボー橋から撮ろう。

3位 シンガポール全般(ホーカーズ除く)

修学旅行で訪れたが、あそこはビジネスの街。面白みに欠けるのだ。マーライオン、べタな写真を撮るしかない。とにかく熱い。そして熱いのに冷房が効いてないところで火鍋を食わせられる有様。唯一面白かったところと言えばホーカーズ。言わずと知れたバックパッカーの再会の場である。日本では味わえないエキゾチックな食べ物が売っていて、勘に身を任せて注文しよう。この屋台集落は行かなきゃ損だぞ!

 帰りに出会った「廃墟ビルアート」。愛と暴力の詰まったアヴァンギャルドな世界は好きである。僕の旅もアヴァンギャルド色に染まりつつあるぞ!もっと面白いエピソードで固めたいと思ったら、明後日に国外脱出イベントがあるではないか!わくわくだ。

明日はバス乗り場の支度とムール貝を食べることだけにして戦闘準備せなあかんな。

 こうして、僕の旅は最大の修羅場が夜明けを迎えようとしているのだった。