地球の急ぎ方~モロッコはイン・シャー・アッラー編~

二日目 まさかの日本でクランク・イン

 あの大惨事から一夜。

 改めて、僕が泊まっている部屋を物色してみる。バスルームからベッドルームを臨める窓があるではないか。これはアクションで使えそうだ。外を見渡すと、鼠帝国の近くだからと調子乗った鼠色の雲による曇天、荒れる東京湾がある。

 そう、ここで目的の旅映画作りを諦める訳にはいかないのだ。

 まず、本当にツアー自体が消滅したときのことを考えサークル用動画の脚本を練る。ヒントは僕の頭のフォルダ2013年12月に収納されていた。大林宣彦監督作「北京的西瓜」のクライマックスシーン。主人公が助けた中国人たちからの恩返しで中国に行くというシーンが諸事情により中国に行かずして中国の様子を撮った。その残念な経緯をベンガルがカメラに向かって語るシーンがこれだ。

 

 再現してみた。

 

 「ゴデェイ ヤイ エア チェ・ブンブン(デンマーク語:こんにちわ、俺はチェ・ブンブンだ)。モロッコについたでい!...と言いたいところだが、残念ながら飛行機が欠航になったためまだ日本に居ます。今日の16:00の便に乗れれば良いのだが、雲行きが怪しい。果たしてチェ・ブンブンは無事モロッコにたどり着けるのか?」

 

 あまりぱっとしない動画が撮れたのでがっかり。ふと腹が減る。そうだ。2000円までカタール空港が朝食代出してくれるのか!これは食わねば。いざ一階。しかし、そう上手い話はあるものではない。実はこのホテルのバイキング。一回3300円取られるのだ。しかも、近所にコンビニなどない。断食or1300円の朝食の次元である。つい先日「モロッコで断食」という本を読んだけれども、こう気分が落ち込んでいる日に断食はしたくない。しょうがなしに朝食の道を選ぶ。毎月チェ・ブンブンは設定予算を決め、一回の銀行引き出しだけで一ヶ月生活。安定の旅行に向けた貯金ライフを送っているが、2月の予算は想定外の出費で厳しい有様である。この時期、アカデミー賞関連作品やカンヌ映画祭作品が日本公開しまくる時期でもあるので僕の財布情勢は厳しいなり。

 閑話休題、僕はただでさえ小食なのに精神的に参った状態で元をとれるかと言われたら、もちろん取れない。しかも、朝食メニューだけに期待していたゴージャスなバイキングはなく肩すかしを食らう。しかし、腹は減っては撮影は出来ぬ。腹に食料を流し込みました。

 

 さて添乗員さんから出発は13時頃とモロッコ旅行への希望の光が見え始めたので、レッツ・クランク・イン新作映画「ラマダーン」。

 棚からぼた餅なホテルロケーション。何をしようかと考えふとバスルームのタオルを持ってひらめく。そうだ「断食」の神様という設定を追加しよう。

 アウトラインはこうだ。

 主人公の青年はモロッコのガイドブックを読んで「断食」に目覚める。日本で「断食」を敢行。あまりの苦しさから、幻覚が見え始め主人公を脅かす。それに耐えると、外から「断食」の神が出現し、モロッコへのパスポートを手に入れる。そう、第一章は断食ラウンドワン。これで行こう。

 早速、「断食」の神様のシーン撮影準備に入る。外は意外と寒い。裸にタオル一枚で外に出ると縄文時代、弥生時代の人々の凄さが身にしみる。向かいのホテルの人が今、双眼鏡やカメラのズーム機能で外を撮影したらこの裸族にビックリ、ぎっくり腰になるだろうと思いながら臆せず撮影敢行。家から持ってきた三脚を使った絶妙なカメラアングルで「断食」の神様降臨。僕は滑舌が悪いから、映画に映るときは外国人の役を演じるか、無口な日本人を演じるほかない。ってことで、神様の台詞はテキトー語。如何にもアフリカンなイントネーションでカメラに語る。「ハダッハダッハゥ!」「ゴデシャヴァラッキ!」良いできだ。やっぱりこういう動画を撮る方が好きだわとテンション上がりまくり、完全にスイッチ入ってしまった僕は続けざまに、手だけを使った舞、テロリスト描写を撮影。あっという間に12:45分。

 「007/リビング・デイライツ」のテーマ曲を聴き、ハイな状況で空港へ。

 

-Save the darkness, let it never fade away in the living daylights
(暗黒を救い給え、生きる希望の光を絶やさないでくれ!)

 

 まさに、リビング・デイライツはこの日のための曲のようだった。

 

 2時間後、僕は焦っていた。チェックインカウンターを15:30になっても通過できていないのだ。出発時刻は16:30。1時間を切った。しかも、外はエアポート映画の代表作「大空港」を思わせるほどの大雪。しかも、どんどん吹雪チックになっているではないか。焦る。なんたって、受付カウンターの人船頭多くして船山に登っている状態なのか人だけは多く、何も進んでいない。一組の客がもめ始めてから30分。列は一人もさばけていないのだ。ようやく、チェックインカウンターもう一つ空けて稼働。その外国人の客のトラブルシューティング完了を横目に祈りいざ搭乗口へ。

 

 

 出国審査を終え、搭乗口に着くと出発10分前。しかし、チェックインカウンターの人がさばけていないため、搭乗できない状態。僕の腹の虫が泣き始めた。

 最初は、下巻の半分まで読み進めていた「ウルフ・オブ・ウォールストリート」というドラッグ小説で腹を満たそうとしたが、流石のこのドラッグ小説も効果が切れ空腹との仁義なき戦い勃発。機内で散々食わせられるだろうからと自分の虫に言い聞かせ1時間。一向に希望のアナウンスすらない。

 限界に達した僕はどら焼きを買いました。本当は出国し、治外法権の地にいるため、ハイネケンを飲もうかと思ったが、テンションが低すぎて買う気が起こらなかった。空きっ腹に酒は症状を悪化させるらしいしね。

 どら焼きを買ったはいいが、

 「只今から搭乗開始です、ゲートまでお越し下さい」

 とのアナウンスが。

 ガッデム!なんてこったい!

 

 しかし、このどら焼きのおかげでむやみなラマダーン断食を免れたことに気づいたのは約2時間後。搭乗してから、飛行機窓が見えなくなるぐらい猛吹雪。外では整備士がしきりに熱湯らしきものを窓・翼に吹っかけるが効果なしなようで飛ばない飛ばない。席は昨日同様座席だから、これを機に「昨日は大変だったっすね」と例のカップルと仲良くなろうと思ったら、今度は昨日とは違う女子二人組が座っている。

 「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を読み終えた僕は、その頃「フェルマーの最終定理」を楽しんでいたため、その女子二人組に怪しまれる。眼鏡もかけていたもんだから...

 「あの人怖い、パソコンオタクだよね~」

 と言われてしまう。

 

 あの~聞こえてますよ。

 

 それから1時間後ようやくテイクオフ。必然と機内から拍手が巻き起こる。

 幸運なことにカタール航空は離陸前からディスプレイをいじれるシステムだったので、本は読み終わるし、昨日途中まで観た「ブルー・ジャスミン」も観終えられたのでプチ嬉しい。機内食も肉がうまい。そして、おやつのキットカットも良い冷え加減で美味だった。

 

 さて機内は暮れ、真っ暗。僕は飛行機に乗ると映画と映画の間にインターミッションとしてトイレに行くのだが、僕が行こうと思ったタイミングで隣のマドモワゼルたちは爆睡。大脱出より大脱走がお似合いのエクストリームと化す。とはいえ、何故かいつもなら映画の終わりに鳴るマイ膀胱タイマーも故障中だったので3本観ても無敵でした。気になるのは、映画終わりにちらっと見る飛行機運航情報が毎回僕の予想に反して気がするのだ。というのは、この運行情報には世界地図の上に飛行機の絵を載せた視覚的情報もあるのだが、まったく中国を越える兆しがないのだ。こんなもんだっけ?

 

 僕の不信感に応えるように悲報が...

 「この飛行機は燃料残量と従業員の勤務時間を考慮し、カラチで燃料補給を行います。滞在時間1時間半を予定しています。」

 

 「銀河鉄道999」かとツッコミを入れたくなる悲報だ。生まれて初めて飛行機が途中下車。まあ、旅行前に観た「アイム・ソー・エキサイテッド」のようにドラッグ入りの酒提供で状況を隠蔽したりやゲイ添乗員によるセクシーダンスで乗客を紛らわすような最悪飛行機じゃなかっただけ不幸中の幸い。でも、スカンジナビア航空を使ったときの快適なサービスは欲しかったな~。せめてデンマークの姉さんのような可愛さ、セクシーさは欲しかった。

 

 さて本当にカラチに途中下車。カラチってどこだよ!パキスタンでした。真っ暗なパキスタン。飛行機だけ。確かに、僕の学生時代目標の「社会人になるまでに25ヶ国以上制覇」に一役買ってしまっているが、こんなのは踏破じゃないな。せめて空港内滞在をしたかった。

 

そんなこんなで飛行機は再びテイクオフ。

今回もモロッコ着けずでした...to be continued